一本のカセットテープが、40年以上続く音楽との出会いになった

前回のブログでは、『ミッドナイト・バス』という映画について書きました。

年齢を重ねることで、昔は見えなかったものが見えてくる。

そんなことを考えさせてくれる一本でした。

振り返ってみると、私の人生にも小さな「きっかけ」がいくつもありました。

今回は、浪人時代に出会った一本のカセットテープについて書いてみようと思います。


東京での浪人生活

高校卒業後、私は東京に上京し浪人生活をスタートしました。

予備校の寮で暮らしながら、大学受験に向けて勉強する毎日。

初めて親元を離れ、一年間、自分自身と向き合う時間でもありました。

そんな寮で、一人の仲間と出会いました。彼も大阪から上京しており、思いっきり大阪弁でいろいろ話せる友人としてとても仲良くなりました。

ある日、その友人が一本のカセットテープを貸してくれました。

「これ、聴いてみ。めっちゃええで。」

たぶん、それくらい何気ない一言だったと思います。

でも、その一本のカセットテープが、その後40年以上続く「音楽との付き合い方」を決めることになるとは、その時は思いもしませんでした。


If I Were a Bell

予備校から寮へ戻ってくる。

お風呂に入る。

食堂で夕食を食べる。

そして、自分の部屋へ戻る。

友人に借りたカセットテープをカセットデッキに入れ、再生ボタンを押す。

ベッドに横になり、流れてくる音楽にしばらく耳を傾けていました。

途中、音楽ではなく、男性の声が流れてきました。

英語なので何を言ってるのか分かりません。

そのすぐ後、指でカウントを取る音と同時に聴こえてきたのは、

キーン コーン カーン コーン

キーン コーン カーン コーン

学校の授業の始めと終わりに流れてくる鐘の音。

えっ?なにこれ?ジャズなの?

考える暇もなく音楽が始まる。

それは、

マイルス・デイヴィスの 「If I Were a Bell」 でした。

その日まで、ジャズなんて、ほとんど聴いたことがありませんでした。

でも、その音楽は不思議で例えようもない魅力的な力を有していました。

派手ではありません。

分かりやすくもありません。

時に、退屈にも感じる音楽。

にもかかわらず、一日の終わりにはジャズに耳を傾けるようになっていました。


音楽には時間を閉じ込める力がある

今でも時々、「If I Were a Bell」を聴いています。

すると、あの頃の寮の部屋のことがよみがえります。

ベッドと机。

天井。

少し疲れた体。

翌日もまた勉強が続く毎日。

18歳だった自分。

音楽には、不思議な力があります。

曲だけではなく、その頃の空気まで一緒に記憶している。

そんな気がします。


もっと聴いてみたい

しばらくすると、その一本のカセットテープだけでは物足りなくなりました。

もっとジャズを聴いてみたい。

もっと知ってみたい。

そんな気持ちが少しずつ強くなっていきました。

浪人時代、代々木駅から新宿駅へ向かう途中のビルの地下に、「はいから亭」というジャズ喫茶がありました。

お店の前までは何度も来ていました。

でも、いつもそのまま通り過ぎていました。

「ジャズ喫茶」というだけで、何となく敷居が高く感じていたのです。

ある日、好奇心が勇気を少しだけ上回りました。

勇気を出して扉を開けてみることにしました。

扉を開ける前は小さく漏れて流れてきていたジャズが、扉を開けた瞬間に大音量で私の全身を包んでいきました。

そこから、私のジャズとの本格的な付き合いが始まっていきます。


はいから亭でのほろ苦い思い出

横道に逸れますが、「はいから亭」での忘れられない思い出があります。

ある日、いつものようにジャズを聴いて寮へ戻ると、数日後、母から寮に電話がかかってきました。

「はいから亭というお店に、健康保険証忘れてるんちゃう?」

その時まで、私は健康保険証をなくしていたことにも気づいていませんでした。 どうして病院ではなく、ジャズ喫茶に健康保険証を忘れたのか。 今でもよく分かりません(笑)。

マスターが保険証に書かれていた会社へ連絡を入れてくださり、後日、お店へ受け取りに行きました。 恥ずかしかったことも、今では懐かしい思い出です

そうそう、

はいから亭では、パット・メセニーの音楽にも出会いました。スタンダードジャズだけではない、新しい世界があることを教えてくれた音楽でした。今でもこの曲を聴くと、あの店の大きなスピーカーと、まだ飲み馴れていなかったコーヒーの苦みを思い出します。


おわりに

人生を振り返ると、

「ある日人生が大きく劇的に変わった。」

そんな大きな出来事は、滅多に起こりません。

一方、少しずつ人生に変化をもたらせる「きっかけ」は時々目の前に現れます。

私も、あの日は友人から借りたカセットテープを聴いただけでした。

その時には人生にもたらす意味はわかりませんでした。

一本のカセットテープが40年以上という時間をかけて、私の感性を静かに育ててくれています。

人生には、あとになって意味が見えてくる出会いがあります。

今ではいろいろな音楽を聴きます。

それでも、ときどき「If I Were a Bell」が聴きたくなる。

あの日の自分に帰って。

私にとって、「If I Were a Bell」は、そんな一曲です。


次回は、、、

次回は、大学時代のことを書いてみようと思います。

ジャズ喫茶。

中古レコード店。

少しずつ増えていったレコード。

今でも本棚に並ぶ一枚一枚には、音楽だけではなく、あの頃の時間も一緒に刻まれています。


ブログでは「言葉」を。

Instagramでは「風景」を。

そんなイメージで少しずつ発信しています。

ライブや街歩き、建築、アクアリウムなど、写真を中心に更新していますので、よろしければこちらものぞいてみてください。

📷 Instagram:@mythreedoors


3つの「と」びらをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む