「ずるい考え方」木村尚義著

「ずるい考え方~ゼロから始めるラテラルシンキング入門」(あさ出版)木村尚義著 2016年

第1章 ようこそ!ラテラルシンキングの世界へ

第2章 ラテラルシンキングに必要な3つの力

第3章 最小の力で最大の効果を出す

第4章 相手の力を利用する

第5章 異質なもの同士を組み合わせる

第6章 先の先を読む

第7章 ムダなものを捨てない

第8章 マイナスをプラスに変える

第9章 ラテラルシンキング力を試してみよう

 

「ロジカルシンキング」はよく耳にしますが「ラテラルシンキング」は耳に馴染みのない言葉でした。

この違いを分かりやすく説明する事例が著書に紹介されています。

SuicaやICOCAなどのICカードの導入の際に、自動改札機の開発者を悩ませたのが、運賃を計算する「時間/スピード」。相互乗り入れによる複雑な運賃計算処理が発生すると、計算時間が長くなってしまう。しかし改札機内のコンピューターの機能は限られているため、劇的な計算速度アップは難しい。かと言って、計算処理が終わるまで改札の扉を閉じたままだと、人の流れが止まったり、渋滞してしまったりする。

さてどうするか?

コンピュータの計算処理速度をさらに上げるのは解決策の1つ。しかし、処理速度を上げるための技術開発には、資金、労力、時間など多くの投資が必要となり、簡単には実現できない。

自動改札機の台数を増やすことにより同時処理数を増やし、人の流れを止めないようにする。これもまた解決策の1つ。しかし、台数を増やすにはその分のスペースと資金がかかります。また、空いている時間帯には、スペース自体が無駄になってしまいます。

では、開発者がとった解決策は、、、

ICカード導入時期に、電車の乗り換えの際に「自動改札機が長くなっているな」と感じたことはありませんでしたか?

と著者は問いかけます。

ICカード導入初期の頃を思い出してみると、確かにそう感じたように思います。

そう、開発者は自動改札機そのものを長くすることで解決しました。

自動改札機を長くし、コンピューターが運賃計算を完了するために必要な時間だけ人を歩かせ、計算する時間分を稼ぐようにする。そうすれば、人の流れを止めず、人の渋滞を防ぐことができる。

その結果、技術開発や設置にかかる資金、労力、時間、スペースを全て省き、問題を解決できた。

これが、ラテラルシンキング的発想だそうです。とても分かりやすい事例でした。著書の中では、同じようなラテラルシンキング的発想がたくさん紹介されています。またラテラルシンキングに必要な環境をつくるために必要な3つの能力が紹介されています。

①疑う力~固定観念を打ち破る

②抽象化する力~物事の本質を見抜く

③セレンディピティ~偶然の発見を見逃さない

下記ラテラルシンキングとロジカルシンキングの比較表は本著より。

ラテラルシンキング ロジカルシンキング
目的 思考の幅を広げる 筋道立てて論理的に解答を導き出す
思考の 方向性 水平思考。考え方の可能性を広げる。物事の要素を集める。本質を考える 垂直思考。ひとつの考え方を深く掘り下げる。物事を分類・整理する。具体化を考える
解答 唯一の正解はなく、たくさんの解答がある 基本的に解答はひとつ
考え方 自由奔放に発想する。直感を大切にする。枠組みにとらわれない 常識的・経験的に発想する。論理を重視する。既存の枠組みに当てはめる

普段の会社経営という仕事において、どちらでシンキングしていることが多いかというと、私の場合はラテラルシンキングとロジカルシンキング半分ずつのように思います。中長期的な視点に立って物事を考える場合はラテラルシンキングしようとしていることが多いし、一方で先が読みやすい短期的な視点に立つ場合や社員や関係者の方をマネージメントするときはロジカルシンキングしようとしていることが多いように思います。

ただ、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行という未曽有の緊急事態の今は、多くの場合、ロジカルシンキングよりもラテラルシンキングしながら課題と向き合い1つ1つ解決しながら前に進んでいくことが求められるような気がします。

予想できない動きをする、見えない敵に対しては、著者がいうところ「ずるい考え方」的ラテラルシンキングで立ち向かっていきます。