★解説・あらすじ(参考:映画.com)
『海よりもまだ深く』(2016年)は、是枝裕和監督、阿部寛主演の人間ドラマです。
主人公の良多は、かつて文学賞を受賞したものの、その後は作家として芽が出ず、今は探偵事務所で働いています。それでも小説家への夢を捨てきれず、探偵の仕事も「小説を書くための取材」と自分に言い聞かせています。
別れた妻への未練を引きずり、息子の前では格好をつけ、お金にもだらしない。そんな少し頼りない良多が、台風の夜、団地で一人暮らしをする母の家で、元妻と息子と一晩を過ごすことになります。
大きな事件が起きる映画ではありません。夢見ていた未来とは少し違う人生を生きる人たちを通して、家族、夢、後悔、そして「幸せとは何か」を静かに描いた作品です。
★感想★
是枝裕和監督の映画『海よりもまだ深く』を観ました。
実はこの映画、何年か前にも一度観た記憶があります。でも、後半部分が全く記憶にないので、もしかして最後まで観なかったのかもしれません。
今回改めて観てみると、とても心に残る映画でした。
昔観た映画と、今観る映画。
映画が変わったわけではありません。
変わったのは、私自身。
小説家は、人の言葉を集める
主人公・良多(阿部寛)は、かつて文学賞を受賞した小説家。今は探偵事務所で働きながら、いつかもう一度小説を書こうとしています。
劇中で印象的だったのは、良多が人との会話の中で「これは」と思った言葉をメモする姿でした。
それを見て、私も真似をしてみることにしました。
映画を観ながら、心に残った言葉をスマホにメモしていく。気づけば、それは映画の感想というより、自分の人生を見つめ直す時間になっていました。
是枝裕和監督が描く「普通の人生」
是枝裕和監督の作品では、大きな事件や派手な展開よりも、日常の中にいる人たちの姿が丁寧に描かれます。
この映画にも、ヒーローはいません。
勧善懲悪もありません。
描かれるのは、
少し情けなく、
少し不器用で、
でも、どこか憎めない人たち。
良多も決して立派な人ではありません。
元妻に未練を残し、お金にもだらしなく、息子にも格好をつけてしまう。
それでも是枝監督は、彼を裁きません。
「こういう人、いるよね。」
「もしかして、俺がそうかも。」
「もしかして、あなたもそうなんじゃない?」
そんな優しい距離感で見つめています。
だから観ているこちらも、いつしか主人公を応援してしまいます。
落語のような映画
途中で、ふと思いました。
「この映画、落語みたいだ。」
映画のジャンルは「ドラマ/コメディ」。
最初は少し不思議でした。
でも観終わる頃には納得しました。
人間は失敗もする。
見栄も張る。
後悔もする。
それでも、どこか笑えてしまう。
そして最後には、
「人間って悪くないな。」
そんな気持ちになります。
『文七元結』の長兵衛もそう。
『芝浜』の勝五郎もそう。
落語にもこの映画にも、立派とは言えない、どこか頼りない人たちが登場します。
だからこそ、人間の温かさが伝わってくるのかもしれません。
心に残った言葉たち
ここからは、映画を観ながらメモした、心に残ったセリフを幾つかご紹介します。
「未来にやきもちを焼く」
とても美しい表現だと思いました。
過去ではなく、「もし違う人生を歩んでいたら」という未来に嫉妬する。
人生経験を重ねた人ほど、この一言の重みを感じるかもしれません。
「なりたい大人には簡単になれない」
年齢を重ねるほど、この言葉が響きます。
子どもの頃は、こんな大人になりたい、こんな大人になれるだろうと思っていました。
あんな大人にはなりたくない、あんな大人になるわけないと思っていました。
でも実際に自分が大人になってみると、昔の自分が想像もしていなかった大人になってしまっている自分もいる。
でも、その違いを認めて受け入れて生きていくことは辛くもあるけど、子どもの頃だったら決してできなかったこと。
それもまた、生きていく自信になるような気もします。
「幸せってのは、何かをあきらめないと手にできないものなのよ」
映画の中で一番印象に残った場面でした。
テレサ・テンの『別れの予感』がラジオから流れる中、樹木希林さん演じる母が息子に語る言葉。
人生を長く歩んできた人だからこそ言える、静かな重みがあります。
若い頃は、全部手に入れたいと思っていました。
でも人生には限りがあります。
「諦める」とは敗北ではなく、「何を大切にするかを選ぶこと」。
そんなことを教えられた気がしました。
「なりたかったものになれたのではなく、そういう気持ちで生きてるかどうかが大事」
この言葉も深く心に残りました。
夢が叶ったかどうかではない。
肩書きでもない。
「そうありたい」と思いながら生きているか。
その姿勢の方が、ずっと大切なのだと思います。
「人生、どこで間違えちゃったんだろう」
映画の中で何度か出てくる言葉です。
でも、この映画はその答えを教えてくれません。
観終わって私が思ったのは、
人生に「間違い」があるのではなく、
遠回りも、
失敗も、
後悔も、
全部ひっくるめて、その人の人生なのだということ。
だとすると、それを潔く受け入れながら生きていくこと。
なぜなら、それが自分自身の姿だから。
「海よりもまだ深く」というタイトル
映画を観終わってから、タイトルの意味を考えていました。
人の心は、海よりもまだ深い。
親子の距離。
夫婦のすれ違い。
後悔。
愛情。
夢。
どれも簡単には説明できません。
だから人生は
厄介でもあるけど
悲しくて辛いこともあるけど
美しい深みがある。
おわりに
今回、主人公・良多にならって、
でも気づけば、
その言葉を通して、
映画は、人生の答えを教えてくれるものではありません。
けれど、人生について考えるきっかけは与えてくれます。
本や映画、落語、そして人との会話の中で出会った「
それらはきっと、誰かの名言ではなく、
主題歌:「深呼吸」/ハナレグミ
