「『勝手にうまくなる』仕組みづくり」(辻本正人著)

「多賀少年野球クラブの『勝手にうまくなる』仕組みづくり」(ベースボールマガジン社)(辻正人著)

第1章 チームづくりの方針

第2章 選手がうまくなる仕組みと指導

第3章 チームの環境と運営

第4章 子どもの育成と「魔法の言葉」

第5章 目指すべき少年野球の形

組織やチームをどのようにつくり、導いていくか。これは、トップに立つ人間の永遠のテーマです。そして、そのあり方は、トップに立つ人間の価値観や考え方が必ず反映されていきます。

多賀少年野球クラブの辻監督は「監督自身がチームを勝たせる」のではなく、「選手たち自身で勝利をもぎ取るチームをつくろう」という考え方で少年たちを導いていきます。

『子どもたち自身が「勝ちたい」と思い、勝つためにどうやればよいのかを自分で考え、自分で工夫する。監督の役割は、子供たちの心の中から湧き出てくる思いを、うまく形にできる仕組みをつくること。』

『練習メニューは基本的に、最初のうちは何もアドバイスせずにやらせている。その上で「こうしてみたらもっとええで」と促す。いきなり「グラブはこういう使い方をしなさい」と押し付けるのではなく、いかに子どもたちに「やってみよう」と思わせるかが大事だ。』

『サインを出すと子どもたちは「何が何でもそうしよう」と考えるもの。だから、経験を重ねたら少しずつサインを出さない方向に持っていき、自分たちで考えて判断させる。するとそのうち、私が言いたいことを察して「うん、うん」としっかり肯きながら話を聞くようになる。いつの間にか座学で教えて野球が浸透し、わざわざサインを出さなくても監督を同じ思考ができるようになっている。』

『「ノーサイン野球」ならぬ「脳サイン野球」。完全に自分たちで考えて動けるようになっているというわけだ。』

『メンバー選考の基準は何かと言うと、まずは各ポジションにおける守備力。そして、野球に対する理解力や判断力だ。運動能力が高いからと言って、必ずしもレギュラーになれるとは限らない。試合中、私はベンチからさまざまな声掛けをして、子供たちに「考える野球」を促している。』

『言葉の掛け方については前にも言った通り、「怒る」「叱る」ではなく「注意」「指摘」。そして私は、感情をなくして事実だけをしっかり伝えるようにしている。』

『「なにくそ」とおもわせる精神論ではなく、何がダメだったのかを理解させてすぐ次のことに目を向けさせる。』

『「多賀」の子どもたちが大人になって社会を変えてくれるんじゃないかという期待もある。周りから言われたことに対して「これをやっていれば大丈夫だ」と考えるのではなく、自分でちゃんと考えて行動に移し、そこに責任を持っていく。野球を通じて、それを当たり前にしていきたいというのが私の願いでもある。』

選手が勝手にうまくなっていく仕組み。

そして、勝手に優勝できていく仕組み。

その仕組みづくりの成功のカギは、仕組みを構成する子どもたち1人1人が「野球を考えること、考える野球をすること」ができるかどうか。そのために、辻氏監督は少年たちへの言葉がけを丁寧に考え、言葉がけのタイミングを見極める。少年たち一人一人が「考えて野球をする」ことの楽しさが分かるよう、練習メニューを戦略的に考える。監督のサインで選手を駒のように動かすのではなく、選手自身が考えて判断して行動できるよう、自然な流れで導いていく。

監督が「今はバントだ!」とサインを出しているので、理由はよく分からないけれどとりあえず走る選手ではなく、自らの考えと判断で走る選手。しかし、その考えと判断は自分勝手なものではなく、常日頃から「バントが必要な場面はいつ、どこか」ということを常に考えているから育まれていくもの。そしてまた、監督や他のチームメンバーとの日頃のコミュニケーションを濃いものにし、同じ場面では、皆が同じ判断ができる思考レベルに到達しておくこと。

『ええか。野球には3つの力が必要なんや。力って言っても筋力ちゃうからな。まずは”聞く力”。人の話にちゃんと耳を傾けて聞いているか?次は”見る力”。人がやっているのを見て学ぶんや。で、最後は”試す力”。自分で菅家てこうやってみようっていろいろ試す。この3つの力がなかったら野球やうまくならんで。練習だけじゃなくて、学校でも一緒のことや。』

根性論が中心だった時代から、今は「自分自身で思考し、判断し、行動し、責任をとる」時代へ。多賀少年野球クラブから巣立って大人になっていく野球少年たち。辻監督が言うように、確かに社会を変えていく原動力になっていくように思います。

「勝手にうまくなる」仕組みづくり。

その延長線上には、

「勝手に社会がうまく変わっていく」仕組みづくりの未来が見えてきます。