「失敗の科学~失敗から学習する組織・学習できない組織」マシュー・サイド著

「失敗の科学~失敗から学習する組織・学習できない組織」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)マシュー・サイド著 2016年

第1章 失敗のマネジメント
「ありえない」失敗が起きたとき、人はどう反応するか
「完璧な集中」こそが事故を招く
すべては「仮説」にすぎない

第2章 人はウソを隠すのではなく信じ込む
その「努力」が判断を鈍らせる
過去は「事後的」に編集される

第3章「単純化の罠」から脱出せよ
考えるな、間違えろ
「物語」が人を欺く

第4章 難問はまず切り刻め
「一発逆転」より「百発逆転」

第5章「犯人探し」バイアス
脳に組み込まれた「非難」のプログラム
「魔女狩り」症候群 そして、誰もいなくなった

第6章 究極の成果をもたらす マインドセット
誰でも、いつからでも能力は伸ばすことができる

終章 失敗と人類の進化
失敗は「厄災」ではない

 

私が経営者として関わる会社は、昨年創業50年を迎えました。そして、私も50才。長い歴史を有する会社には、自ずと信用・技術・知恵という財産が積み上がっています。しかしその一方で、劇的な変化と向き合わなければならない時代においては、その長い歴史や財産が逆に足かせになる恐れもあります。

私の重要な仕事の1つは、変化に柔軟に対応できる組織をつくること。変化を受け入れ、謙虚にそして真摯かつ真剣にその変化と向き合う社員育成をすること。

その地道な努力を怠ると、世の中の変化に対する感度が高いお客様/クライアントからの信用・信頼を失うことになり、会社組織の存続は危機的状況に陥ります。

常に直面し続ける正解のない問題・事象に向き合い、前向きに思考し試行錯誤を継続していく中で「失敗」は避けることができません。

ゆえに、

失敗と前向きに向き合う文化を会社内に育むこと。

失敗を真摯に受け止める姿勢事態に大きな価値があるという考え方を会社組織内に浸透させること。

失敗から学ぶためにも、注意深く考える力と、物事の奥底にある真実を見抜いてやろうという強い意志を持つ社員を育成すること。

「失敗ありき」「失敗は当たり前」の前提に立ち仕組み・システムを設計し、整えること。

「失敗はしてもいい」というよりも「失敗は欠かせない」という文化をつくること。

失敗したにも関わらず会社が間違った方向に進んでしまっている場合、そのことを速やかに察知する手段・方法を確立する。

「失敗にオープンな組織文化を構築すること」は、劇的な変化の時代を乗り越えていく上で、経営者がやるべき最も重要な一つの仕事。

長年バスケットボールをやっていたこともあり、私の心にも強く響いてくるマイケル・ジョーダンの言葉。本書でも紹介されていました。

バスケットボールの神様と呼ばれるマイケル・ジョーダンもその1人だ。ナイキのある有名なCMで、彼はこんなことを言っていた。「私は9000本以上シュートを外し、ほぼ300試合で負けた。ウイニングショットを任されて外したことは26回ある」。このCMを見た人の多くは困惑した。なぜわざわざ失敗した話をするのだろう?ジョーダンは、こんな言葉も残している。「精神的な強さは、肉体的な強さよりずっと強靭です。私はこれまでいつもそう言っていますし、そう信じています」。

本書では、CMの最後の言葉が紹介されていなかったので、私の備忘録のためにも書いておきます。

I failed over and over and over again in my life.
That is why I succeed.

いよいよ始まった2021年。これから1年、思考錯誤を繰り返しながら、思考と失敗を重ね、精神的強さも強化させながら、会社も自分自身も未来に向かって成長していきたいと思います。

 

以下、私が本書にラインを引いた文章の一部抜粋。

もし「失敗は学習のチャンス」ととらえる組織文化が根付いていれば、非難よりもまず、何が起こったのかを詳しく調査しようという意志が働くだろう。適切な調査を行えば、ふたつのチャンスがもたらされる。ひとつは貴重な学習のチャンス。失敗から学んで潜在的な問題を解決できれば、組織の進化につながる。もうひとつは、オープンな組織文化を構築するチャンス。ミスを犯しても不当に非難されなければ、当事者は自分の偶発的なミスや、それにかかわる重要な情報を進んで報告するようになる。するとさらに進化の勢いは増していく。

複雑な世界から物事を学ぶには、その複雑さと向き合わなければならない。何でも単純に考えてすぐに誰かを非難するのはやめよう。肝心なのは、問題を深く探って本当に何が起こったのかを突き止めることだ。その姿勢があれば、隠蔽や自己正当化のない、オープンで誠実な組織文化を構築することができる。

どんなミスも、あらゆる角度から検討して初めて、相反する出来事の表と裏を覗き見ることができる。その過程を経てこそ、問題の真の原因を理解できる。どんな間違いがあったのか知らないままで、状況を正すことなど不可能だ。

今日の経営学では、「懲罰文化」と「放任文化」を対比することが多い。この相反するふたつの文化のバランスをとるのが我々の課題だ。

現代のイギリスで最も優秀なサッカー選手の一人であるデビッド・ベッカム。「私のフリーキックというと、みんなゴールが決まったところばかりイメージするようです。でも私の頭の中には、数えきれないほどの失敗したシュートが浮かびます」。成功を収めた人々の、失敗に対する前向きな考え方にはよく驚かされる。もちろん誰でも成功に向けて努力はするが、そのプロセスに「失敗が欠かせない」と強く認識しているのは、こうした成功者であることが多い。

失敗から学べる人と学べない人の違いは、突き詰めて言えば、失敗の受け止め方の違いだ。成長型マインドセットの人は、失敗を自分の力を伸ばす上で欠かせないものとしてごく自然に受け止めている。一方、固定型マインドセットの人は、生まれつき才能や知性に恵まれた人が成功すると考えているために、失敗を「自分に才能がない証拠」と受け止める。人から評価される状況は、彼らにとって大きな脅威となる。

固定型マインドセットの企業と成長型マインドセットの企業の間には、非常に顕著な違いが見られた。まず固定型マインドセットの企業で働く社員は、ミスや非難を恐れており、社内ではミスが報告されないことのほうが多いと感じていた。また、次のような項目に同意する傾向が見られた。「この会社では、ほかの社員を出し抜く行為や、作業の手抜きが頻繁に行われている」「この会社では、しばしば情報が隠蔽されている」。

一方、成長型マインドセットの企業では誠実で協力的な組織文化が浸透しており、ミスに対する反応もはるかに健全だった。また次のような項目に同意する傾向が見られた。「この会社ではリスクを冒すことを純粋に奨励していて、失敗しても非難されない」「この会社にとって失敗は学習の機会であり、それがいずれ付加価値となるととらえている」「この会社では革新的に考えることが奨励され、創造力が歓迎される」

立派な資質があろうとも、やり抜く力がなければ、困難にぶつかって脱落してしまう。困難も成功への通り道だとは考えず、失敗から逃げてばかりになる。「やり抜く力」は、成長型マインドセットと密接に関連している。肝心なのは、成功や失敗をどうとらえるかだ。

成長型マインドセットの人ほど、あくらめる判断を合理的に下す。ドウェックは言う。「成長型マインドセットの人にとって、『自分の問題の解決に必要なスキルが足りない』という判断を阻むものは何もない。彼らは自分の”欠陥”を晒すことを恐れたり恥じたりすることなく、自由にあきらめることができる」。彼らにとって引き際を見極めてほかのことに挑戦するのも、やり抜くのも、どちらも成長なのだ。

人の行動を予測する一般理論はひとつもない。だからこそ、我々が成功に向かって歩んでいくためには、進んで検証を繰り返していかなければならない。状況が複雑になればなるほど、トップダウンではなく、ボトムアップで真実を見出す努力が必要だ。

まず何よりも重要なのは、失敗に対する考え方に革命を起こすことだ。これまで何世紀にもわたって、失敗はまるで汚らしいもののように扱われてきた。

実験や検証をする者、根気強くやり遂げようとする者、勇敢に批判を受け止めようとする者、自分の仮説を過信せず真実を見つけ出そうとする者を、我々は賞賛するべきだ。

複雑すぎる社会では、逆にそうした単純化が起こりがちだ。もしその間違いを正すことができれば、我々の生活に革命が起こると言っても過言ではない。失敗に対する自由な姿勢は、企業、学校、政府機関などほぼすべてのあり方を変える。もちろん簡単なことではないし、抵抗も受けるだろう。しかしその壁を乗り越えていくだけの価値はある。

すべてを「失敗ありき」で設計せよ。

あなたは判断を間違えることがありますか?

自分が間違った方向に進んでいることを知る手段はありますか?

客観的なデータを参照して、自分の判断の是非を問う機会はありますか?

究極の失敗型アプローチ:事前検死

あらかじめプロジェクトが失敗した状態を想定し、「なぜうまくいかなかったのか?」をチームで事前検証していくのだ。失敗していないうちからすでに失敗を想定し学ぼうとする、まさに究極の「フェイルファスト」手法と言える。チームのメンバーは、プロジェクトに対して否定的だと受け止められることを恐れず、懸念事項をオープンに話し合うことができる。

まずチームのリーダー(プロジェクトの責任者とは別の人物)は、メンバー全員に「プロジェクトが大失敗しました」と告げる。メンバーは次の数分間で、失敗の理由をできるだけ書き出さなければならない。その後、プロジェクトの責任者が順に、理由を一つずつ発表していく。それを理由がなくなるまで行う。

事前検視の目的は、プロジェクトの中止ではなく強化にある。「導入予定のプロジェクトについて事前検視を行っても、おそらく通常は中止になることはないはずだ」とクラインは言う。「しかし、チーム全員が有益だと感じる微調整がなされることはほぼ間違いない。事前検視は低コスト・高成果の手法と言えるだろう」。