前回の「ジャズの扉①」では、浪人時代に一本のカセットテープをきっかけにジャズと出会い、代々木のジャズ喫茶「はいから亭」へ通うようになったことを書きました。
大学へ進学しても、ジャズへの興味は冷めるどころか、ますます深くなっていきました。
そんな頃、私が何度も足を運ぶようになった街があります。
横浜・関内です。
最初の一枚
まだジャズについては、ほとんど分かっていない頃でした。
「自分でもレコードを買ってみよう。」
そう思って手に取ったのが、マッコイ・タイナーの『The Real McCoy』でした。
どうしてこの一枚を選んだのかは、覚えていません。
臙脂色ベースのブルーノート・ジャケットがおしゃれに見えたのか?
マッコイ・タイナーの表情や格子模様の服がかっこよく見えたのか?
アルバム・タイトルのデザインに惹かれたのか?
家へ帰り、期待しながら針を落としました。
そして最初の感想は、
「難しくて、よくわからん。」
でした。
その後、二度目に針を落とすまでには、かなり時間が空いたように思います。
でも、その時間は決して無駄ではありませんでした。
ジャズを聴く耳が、少しずつ育っていく時間でもあったのです。
それから約10年後、ワシントンD.Cの「Blues Alley」でマッコイ・タイナーのライブに行く機会に恵まれ、リアルなマッコイと握手したどたどしい英語でお話ししたことがあります。その時のことはまたこれからのブログで書いてみたいと思います。
平日の横浜・関内へ
大学時代、関内が私にとって特別な街になりました。
住んでいた場所から近かったこともあり、ふらっと出かけることがよくありました。
休日よりも平日に行くことが多かったように思います。
大学の授業が終わってから行く日もあれば、正直に言えば、授業をサボって行った日もあります。
もちろん、褒められたことではありません。
でも、当時の私にとって関内は、もう一つの大学のような場所でした。
ジャズ喫茶があり、
ライブハウスがあり、
レコード店がある。
関内の街全体からジャズを教わっていたような気がします。
「ちぐさ」
よく行ったのが老舗のジャズ喫茶「ちぐさ」でした。
創業は1933年!

店へ入ると、まず目に飛び込んでくるのは大きなスピーカー。
オーナーが静かにレコードを回しています。
常連のお客さんはとても自然な所作でかっこよくリクエストしていましたが、私にはそんな勇気はありませんでした。
ただ空いている席を見つけて座るだけで精一杯。あとは、常連さんの邪魔にならないよう、流れてくるジャズに静かに耳を傾けていました。
ある日、大音量でチャーリー・パーカーが流れてきました。
自宅のスピーカーから流れてくるチャーリー・パーカーとの明らかな違い。
そして、
超速のソロが、鳥肌が立つほど格好いい。
心の中では、
「俺はチャーリー・パーカーのジャズを知ってるぜ。」
チャーリー・パーカーのジャズが少しわかり始めた頃の私は、少し得意気な顔をしていたかもしれません。
今思えば、そんな若造がどんな風にジャズを聴いていようが、誰も気にしていなかったでしょう。いや、「ちぐさ」のお客さんは皆さん、普通にチャーリー・パーカーを堪能していたと思います。得意気になっていたのは、私たった一人だったと思います。今思い出しても恥ずかしくなります。
でも二十歳前後というのは、そういうものかもしれません。
大人のジャズな世界へ入りたくて、少し背伸びをしたかった年頃。
それにしても、あのチャーリー・パーカーのアルバムは何だったんだろう?
アルバムは思い出せないけど、高速に流れていくソロの心地よさは今も心と体にに刻み込まれています。
「横浜エアジン」
ライブハウスでは、関内の「横浜エアジン」が好きでした。
遠くからでもはっきりと分かるまっ黄色なペプシコーラの看板。

地下へ続く階段を下りていく時間が好きでした。
一歩一歩日常から遠ざかっていくような感覚。
ジャズの世界へ吸い込まれていくような感覚。
特に常連ミュージシャンだったジャズギタリストの宮之上貴昭さんの演奏はとても新鮮でした。
いつもはレコードの世界で堪能するウェス・モンゴメリーのオクターブ奏法が目の前で展開されていく、宮之上貴昭さんの素晴らしいギターソロに身震いしました。
自宅で聴くジャズ。
ジャズ喫茶で聴くジャズ。
ライブハウスで聴くジャズ。
同じジャズでも、表情は全然違います。
横浜エアジンでは、ライブだからこそ伝わる音の温度や空気を知ることができました。そして、今も思い立ったら一人であちこちのライブに行きますが、その原点が、このエアジンにあります。
「ディスクユニオン横浜関内店」
関内のジャズ喫茶を出てからライブハウスに向かう日もあれば、
昼から夜まで長時間「ちぐさ」のようなジャズ喫茶にいる日もあれば、
ふらっとライブだけを聴きに行く日もありました。
そのどんな日も、帰りはディスクユニオン横浜関内店へ。

棚を眺め、ジャケットを手に取り、少し迷う。
買わずに帰る日もあれば、一枚だけ買って帰る日もありました。
そんな時間も、私にとってはジャズを楽しむ大切なひとときでした。
レコードを買わずに帰る日でも、不思議と満たされた気持ちになっていました。
ジャズの街
その後、「横浜ジャズプロムナード」が開催されるようになると、関内の街全体がライブ会場になりました。

いくつものライブハウスを歩いて回る。
街のどこかで、いつもジャズが響いてる。
関内は、そんな街でした。
街の様子は変われど、今でも関内は、ジャズ好きにとっての聖地の一つだと思います。
おわりに
関内は、私のジャズの原点です。
ちぐさの大きなスピーカー。
エアジンへ続く急な地下階段。
ディスクユニオンでレコードを選ぶ時間。
今でも関内を歩くと、
少し背伸びをしてチャーリー・パーカーを聴いていた二十歳の頃の私が、どこかにいるような気がします。
あの頃の私は、ジャズを聴きたい一心で関内に通っていました。
でも今となると、
関内に流れるジャズに自分自身を育ててもらっていたように思います。
次回予告
関内だけではありません。
四谷には『いーぐる』というジャズ喫茶がありました。
店主は、後に私が何度も読み返すことになる『JAZZ OF PARADISE』著者、後藤雅洋さん。
当時の私は緊張して、話しかけることができませんでした。
40年以上経った今、本棚で静かに佇んでいる『JAZZ OF PARADISE』を手に取りページを開いてみると、20歳の頃の自分から思いがけないメッセージを受け取ることになります。
そのメッセージとは・・・
ブログでは「言葉」を。
Instagramでは「風景」を。
そんなイメージで少しずつ発信しています。
ライブや街歩き、建築、アクアリウムなど、写真を中心に更新していますので、よろしければこちらものぞいてみてください。
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